新しい縦断研究によると、幼少期に虐待やネグレクト(育児放棄など)を経験した人たちは、若年期から中年期にかけて認知タスクの成績が一貫して低めであることが確認されました。これは、一般知能、視覚的抽象推理、処理速度、認知の切り替え能力などにおいてです。
どのような研究か
- 対象は、幼少期(生後〜11歳)に身体的虐待、性的虐待、またはネグレクトの記録がある908人の子どもたち。これに対して虐待歴のない667人を対照群とし、追跡が行われました。
- 1989〜1995年(成人約29歳)、さらに2000年代から2022–2023年(約59歳)まで複数回にわたり認知テストや機能評価を実施。言語能力、処理速度、実行機能などを含む複数の認知ドメインを調査しました。
主な結果
- 虐待・ネグレクト経験者は、対照群に比べて認知テストの成績が低く、特に一般知能(IQ的な能力)、抽象的理由付け、処理速度、認知の柔軟性で差が見られました。
- また、読字能力や認知の切り替え能力(set-shifting)が加齢とともに低下する傾向が対照群よりも顕著でした。
- ただし、この研究設計では「虐待が直接この認知低下を引き起こした」と断定するのは難しい点があると著者らは指摘しています。
なぜ重要か
幼少期の環境が、後の認知機能に長く影響を及ぼす可能性を明示した点が、この研究の大きな意義です。これまで、幼少期の虐待が精神的な問題や社会的な困難をもたらすことは多くの研究で示されてきましたが、側面として「認知機能の持続的な低下」 という結果が出たことで、脳の発達やライフコースを考える上での新たな警告となります。
また、研究の追跡は中年期までおよび、認知機能だけでなく、生活機能(老化・認知症リスクなど)にもつながる可能性がある点も強調されています。

