スマートフォンとSNSが生む、現代の新しい妄想

スマートフォンの通知が鳴るたび、「誰かに見られている」「何かを監視されている」という漠然とした感覚を覚えたことはありませんか?もちろん、これは単なるデジタル疲れかもしれません。

しかし、精神医学の世界では、このデジタル社会が、深刻なメンタルヘルスの問題である「精神病妄想」の形そのものを変え始めているという、驚くべき現象が報告されています。

かつて妄想のテーマは「スパイに追われている」「秘密結社に狙われている」といったものでしたが、現在は「スマートフォンのカメラを通じて監視されている」「SNSのアルゴリズムが自分を操作しようとしている」など、デジタルツールを組み込んだ新しい形へと進化しているというのです。


出典:psypost「Psychotic delusions are evolving to incorporate smartphones and social media algorithms


ーマの変化

精神病における妄想は、「間違った、動かしがたい信念」です。その内容は、その時代・文化の背景を反映します。

時代妄想の主なテーマ(例)
過去(冷戦時代など)KGB、CIA、マフィア、電波ジャック、秘密結社
現代(デジタル社会)Google、Amazon、監視カメラ、SNSのアルゴリズム、AI

研究者たちは、SNSやスマートフォンの存在が当たり前になったことで、患者の妄想が、「テクノロジーが提供する現実」を取り込み始めたことを指摘しています。

特に、「アルゴリズム」は、現代の妄想の強力なテーマです。

「アルゴリズム」が妄想のターゲットになる理由

なぜ、実体のない「アルゴリズム」が妄想のターゲットになるのでしょうか?それは、アルゴリズムの持つ以下の特性が、妄想的な思考と深く結びつきやすいからです。

  • 「見えない力」としての操作性: SNSのタイムライン、おすすめ動画、検索結果——私たちは常に、見えないアルゴリズムによって情報や行動を操作されています。この「見えないが強力な力」は、「誰かに操作されている」という妄想に容易に組み込まれます。
  • 「個人的な特化」が生む確信: SNS広告やレコメンド機能は、あまりにも的確に個人の興味を捉えます。これは「自分だけが監視・追跡されている」という妄想を、患者にとって「揺るぎない確信」に変えてしまいます。
  • 監視カメラの日常化: 街中から自宅まで、カメラと録音機能を持つデバイスに囲まれている現代の環境は、「監視されている」という不安を増幅させ、妄想の現実味を強めます。

精神医療の現場が直面する課題

この妄想の進化は、精神科医やセラピストにとっても大きな課題を突きつけています。

患者が「スマホのカメラが起動している」と訴えるとき、それは妄想かもしれませんが、技術的には実際に可能なことです。この曖昧さが、医師が「それは現実ではない」と否定することを難しくし、治療や信頼関係の構築を複雑にしています。

医師は、患者がテクノロジーをどう理解し、どう利用しているかを詳しく聞き取り、妄想のテーマを解読するという、新たなスキルが求められています。

わたしたちに必要な「デジタルとの距離感」

この研究は、精神病という非常に個人的な病理でさえ、社会環境の変化から逃れられないことを示しています。そして、これは私たち全員に対する警告でもあります。

常に接続されたデジタル社会の中で、「監視されている感覚」や「操作されている感覚」は、健全な精神を持つ人であっても無意識のうちにストレス源になり得ます。

  • スマホの通知をオフにする時間を作る。
  • 自分の意志で情報を選び取る習慣を意識する。
  • デジタルデトックスの時間を設ける。

これは、精神病予防という極端な話ではなく、私たちの心の安定と自己制御感を守るための、非常に重要なセルフケアなのです。デジタルツールは便利ですが、常に主導権は自分自身が握る必要があります。

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